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2018.03.20

ありがとうございます!

『さよ朝』公開から、もうすぐ一か月がたちます。観てくださった皆さんのTwitterやブログ、イラスト、心のこもったお手紙。すべての気持ちが、嬉しくありがたくて……日々、幸せをいただいています。何度も観てくださった方もいらっしゃるようで、本当にありがとうございます。

私も先日、一人でバルト9に行って客席で観てきました。
音響監督の若林さんに「ぜひ、この辺りの座席で観てほしい。一番、想定している音が聞こえるから」と言われた席で……もう、すごかったです。声も音楽も、効果音も。すべての音が絶妙な強弱で混ざりあい、ぐんぐん心に迫って来ました。

若林さんと音響チームの皆さんは、今回とても繊細で絶妙な、ギリギリを攻めた音作りをしてくださいました。音の素材も、これ以上ないぴったりなものを探して作ってくださって。エリアルの赤ちゃん時代の声も、実際の赤ちゃんの声なんです。「まま」という、初めての台詞も。実際は「まんま(ご飯)」と言っているそうで……なんと、本能に根差した言葉!

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音楽を担当してくださった川井憲次さんも、若林さんに紹介していただいたんです。川井さんは憧れの存在ですので、まさか関わってくださるとは思っておらず。最初は緊張しましたが、とても優しい方で、こちらの無茶なオーダーにもこたえてくださいました。シーンにぴったりとあった音楽は、時にシーンを飛び越し、時に一歩下がり……そのドラマティックな緩急は、音楽そのものから感情があふれだすようです。

若林さん、川井さん、音響チームの皆さんとお仕事をさせていただきつくづく思ったこと。それは、「すごい人って柔軟だ!」ってことです。
どのセクションのスタッフもそうなんですけど、本当に「すごい」と呼ばれる人って、偉そうにしている人がいないんです。一緒にお仕事をさせていただいて、その理由がなんとなくわかりました。人格者であるとかそれ以前に、皆さんいつまでもチャレンジャー。向上心があって、自身と作品の可能性をどんどん掘り下げていく。だからこそ、ふんぞり返っている暇はないんだなって。私もそうなりたいって、強く思いました。
そして、別作品になってしまいますが。P.A.作品の『花咲くいろは』で書いた、緒花の台詞(モノローグ)を思い出しました。

「女将さんみたいに仕事に誇りをもって、一生懸命になって。ちょっと子供っぽくて。いつまでも、いちばん最初の気持ち。最初の夢を、忘れないで……そんな風に、なりたい」

この作品のスタッフには、私にとっての四十万スイがいっぱいです!

『さよ朝』制作ブログですが、少し脱線させてください。『花咲くいろは』に登場した福屋という旅館のモデルである秀峰閣さんが、3月17日に閉館されました。湯涌を旅した皆さんの、素晴らしい思い出が生まれた場所。私にとっても作品にとっても、大切で忘れられない場所です。たくさんの宝物を、ありがとうございました!

2018.03.03

燃えあがらせてくれるもの

去年の冬。追いこみでもっとも忙しかった時期の石井さんと私は、『ジャージ部』を結成していました。会社に入ってコートを脱いだら、かわりにジャージを羽織って作業するというもの。石井さんが着ていたのは、校章がかっこいい『Another』の夜見山北中ジャージでした。着用していると、何やら恐ろしい目にあいそうですが……石井さんは無事でした!ふー、よかったよかった。そして、私のジャージはこちら。

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なんと名前入り!『花咲くいろは』を応援してくださる方からいただいた、喜翆荘ジャージです。四十万スピリットを注入され、金色の名を背負うことにより「もう、逃げも隠れもできん!」と、仕事にたいして燃えあがりました。

そして、私を燃えあがらせてくれたものがもうひとつ。試写会でもお話したのですが、メイン・アニメーターの井上さんが描かれたイゾルです!あまりにかっこよくて、石井さんとひとしきり「この顎のラインが」「いやいや、このおでこの傾斜が」などと盛り上がり、コピーを机の横に貼っていたんです。辛いときにはイゾルを見上げることで、もんもんと邪気が、いえ、メラメラとやる気が出ました。

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井上さんのレイアウトや原画をパラパラやると、その場にいきなり別の現実があらわれて、大袈裟でなく心拍数があがります。何度、「うわぁ」と口にしてしまったことか。そして、絵で表現できるあまりにも豊穣な情報に驚かされます。たとえばマキアの走り方。「運動神経悪い走りにしたいんです」とざっくりすぎるお願いをしたのですが、井上さんの手にかかると、手の軌道がそれたり顎が上を向いたりだけでなく、服の皺まで「もたついた足運び」から発生する皺になるんです!なおかつ必死でひたむきで……走り方ひとつで、マキアのことがいろいろと理解できてしまう。

この作品には、ある特殊な(?)女の子達が登場します。物静かで憂いがあり、ときに激しすぎる情熱をぶつけてくる彼女達の登場シーン、ほぼすべての担当が井上さんです。アニメ映画の素晴らしさが凝縮されたダイナミックな動きを、ぜひ楽しんでいただきたいです!

2018.03.01

背中を押してくれた人

脚本を書く際に、指針となるのが監督です。監督が求めるものを探り続け、意見をもらいながら改稿を重ねる。悩むこともあるけれど、自分にない視点に「あ、これいい!」と感じた時の快感は、共同作業ならではです。そんななか、ときどき「岡田さんの思うままに書いて」と言ってくれる監督がいます。どんな監督と組む以上に、実は緊張するんです。ここまで信頼してもらっているのだから、中途半端な脚本はあげられないというプレッシャー。でも、自分でベストだと思える脚本を書けば素晴らしい映像にしてくれると、作品に対して前のめりにさせてくれる……そんな監督の一人が、篠原さんです。

今回、取材を受けていて「どうして監督をやろうと思ったんですか?」という質問がとても多かったのですが……いろいろ理由はありながら、最後に背中を押ししてくれたのは篠原さんでした。篠原さんが「監督やってみれば?」「やるなら手伝うよ」と言ってくださったからこそ、現場に飛びこむ勇気がもてたんです。でも篠原さんが言っていたのは、『監督』ではなく『総監督』という意味だったようで。またしても私は曲解していたのですが……本当に、我ながらどこまでも迷惑な奴です。でも、篠原さんは「まじかー」と言いながら参加してくれました。

篠原さんは今回、副監督として作品全体を、そして監督経験のない私を支えてくれました。脚本の時と同じく「岡田さんの思うままに」と、私がジャッジをしやすいよう様々な方法を考えてくれて。各セクションとの打合せの仕方、コンテの書き方、監督としての心構えも教えてもらいました。篠原さんの言葉で見えてきたこと、救われたことが何度もあります。そして、演出面でも。とにかく大変なカットの多い作品なので、それをどう見せていくかという演出処理が本当に大変で……篠原さんは数多くの難しいカットを、自分がコンテを書いていない場面でも担当してくれました。

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篠原さんにコンテをお願いしたのは、パート単位ではなく「マキアとエリアルの幸せな瞬間」全般です。いろんな幸せの捉え方があると思いますが……篠原さんは、丁寧に重ねていくことをとても大事にしている方です。アニメでは本来、「あたり前には存在しないはずのあたり前」をしっかりとすくいあげていく。それが、キャラクターがいる世界に広がりと厚みをもたせ、映像に温度と息づかいを与えてくれる。品があって繊細で、あたたかくて。篠原さんの描く世界が、私は大好きなのです。

企画がスタートして。篠原さんが私のことを「監督」って呼んでくれた瞬間に、いろいろと覚悟が決まった気がします。篠原さんは、この作品の父のような人です。これから少しでも、親孝行できたらなと思っています。

2018.02.26

公開しました

2月24日。『さよならの朝に約束の花をかざろう』の公開日でした。
企画から五年、制作スタートから三年かかってようやく完成したこの作品。多くの方に劇場に足をお運びいただきました。本当に、ありがとうございます!

初日は、新宿・上野・池袋で舞台挨拶がありました。キャストの石見さん・入野さん・梶さん、主題歌を担当してくれたrionosさん、ラインPの堀川社長と私で登壇させていただいた。皆さんの熱い思いを聞くことができて、心を揺さぶられまくりました。そして、石見さんのきれいな涙……石見さんを抱きしめたくなる気持ち、おさえるのに必死でした!

今回の作品は、アフレコの一年以上前に『読み合わせ』を行いました。キャストさん達にまだ映像がない状態で自由に演技をしてもらい、そこで録音した声をアニメーターさん達が聞きながら、演技の方向性や声からにじむ性格を受けとめつつ絵に起こしていく……。よく、アフレコは「キャラクターに魂を吹き込んでもらう場」といいますが、今回はキャストさんとアニメーターさんが一体となって、一人の人間を同時に生み出しています。試写会で石井さんと石見さんがお喋りしているのを見たとき、なぞの感動がこみあげてきました。
そして、主題歌『ウィアートル』。デモをいただいたのが制作の佳境だったのですが、皆で「さよ朝にぴったりだ!」と盛りあがり、ラストスパートの原動力になってくれました。石見さんの声とrionosさんの声の性質は違うのに、どちらもゆっくりとマキアに重なっていきます……。

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公開前に受けた取材の際に「あなたにとって本作は?」という質問があったのですが、いろんな思いがありすぎて一つに決めきれなくて。堀川さんに相談したら、「私のヒビオルです、って答えるのはどう?」と。うわ、なんか照れる!と思いながらも、あまりにもしっくり来たので、それを採用させてもらいました。

イオルフの民は、みんなで一つの布『ヒビオル』を織りあげていきます。
スタッフ、キャスト、関わってくれたすべての人達が、皆さまに観てもらえる日を目標として日々少しずつ織ってきたこの作品。なので、『さよならの朝に約束の花をかざろう』というヒビオルには、皆さまのこともしっかりと刻まれています。皆さまのヒビオルにも、この作品のことを少しでも織っていただけたなら……これ以上の幸せはありません!

2018.02.23

堀川さんのこと

『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、カラーグレーディングという工程を経て完成しました。画面全体の色の最終的な調整を、1カット1カット行う作業です。そこで感じたのは、画面のすみずみにまで満ちたスタッフの熱意。この画が生み出される過程を見てきたはずなのに、全てが完成状態として一つになったときのパワーに圧倒されました……本当に、最高のスタッフに恵まれた作品です。

そんな素晴らしいスタッフを集め現場を作り上げてくれたのが、ラインPでありP.A.の社長でもある堀川さんです。堀川さんがラインPだからこそ、この作品に参加してくださった方がたくさんいます。堀川さんはエンディングロールのチェック中、「監督・岡田麿里」の字が出た瞬間を写真に取るんだと言って、ずっと画面横に待機していました。生真面目で人の良い横顔を見てたら、いろいろとこみ上げてきました。

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PAの本社は富山。今まで堀川さんの席は東京支社にありましたが、この作品をラストに現場からは離れ、本社へ戻り社長業に専念するそうです。

思えば堀川さんには、ttの頃からいつも怒られてばかりでした。だからこそ、今回ラインPを頼みたかったんです。初めての監督作品でわからない事ばかりの私を、正してくれる人がほしかった。そして望み通り、いっぱい怒ってもらいました。堀川さんの本気を感じられて、ダメージを受けつつも「しっかりしなきゃ」と背筋が伸びました。『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、愚直で丁寧で、とても真摯な作品になっていると思います。それは私の思うP.A.と、そして私の思う堀川さんそのものです。

堀川さんは作品完成とほぼ同時に、越丸という名の柴犬を飼いはじめました。カラーグレーディング後、堀川さんやスタッフと離れる寂しさによろついている私に、「毎朝、田んぼの見回りに連れていくんだ」と、越丸との未来予想図をうきうき語ってくれた堀川さん。もう少し寂しがってくださいよ……でも、越丸は可愛いから仕方ない。

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堀川さんのうきうきした気持ちが、これからもずっと続きますよう。
頼んだよ、越丸。

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『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、いよいよ明日公開です。スタッフの手を離れて走り出していくマキアやエリアル達を、皆さま、なにとぞよろしくお願いいたします!

2018.02.22

プロデューサー 堀川憲司 インタビュー

――『さよならの朝に約束の花をかざろう』が完成し、いよいよ公開になります。
堀川 僕はこの作品を制作するにあたって“わかりやすいキャラクターではないもの”を見たかったんです。そして実際にマキアというキャラクターは、人によって捉え方がいろいろあるキャラクターになりました。岡田監督は打ち合わせで「自分はこういう映画を作りたいんだってスタッフに説明するわけですが、この映画では、それを聞いたスタッフはそれをそのまま受け取るんではないんですよ。「岡田監督はああ言ったけれど、では、自分はこの作品をどう考えればいいのか」というふうに考えながら制作していたんです。岡田監督の考えるマキア像、それから自分たちのマキア像、そういうものがいろいろ生まれるのがおもしろかったし、そういうことを通じて、岡田監督が自分でも意識していない無意識の部分も見えてくるんじゃないかと思っていました。
――わかりにくいキャラクター、ですか。
堀川 TVシリーズの脚本は、複数の脚本家が参加することもあって、キャラクターについては「この人はこういう人だね」というコンセンサスのもとでしか制作を進められないんです。そうすると、人間らしい不可解な部分というのはなかなか表現することができない。これが『有頂天家族』のような原作が小説のものだと逆に可能になるんですが、そういうことをアニメオリジナルの企画としてできないだろうか、と。そしてそういうものを描くには、その人の中にやはりそういう部分がないと難しいと思うんです。「この人はもっと掘っていくと、底知れぬものが出てくるんじゃないか」。岡田監督には以前からそういうものを感じていたので、「100%の岡田麿里を見たい」という話をしたわけです。
――脚本作業はスムーズだったんですか?
堀川 もうかなり最初の段階から現在のものに近いものが出てきました。もちろん稿は重ねましたが、その時も「ここはわかりにくいから、わかりやすく」というような直し方はしませんでしたね。そのかわりにスタッフが岡田監督の説明も踏まえつつ、「これはどう解釈すればいいか」をそれぞれに考えていくわけです。しかもおもしろいのは篠原(俊哉)副監督もコア・ディレクターの平松(禎史)さんも、それを岡田監督にいちいち言葉で確かめたりはしないんです。「違っていたら言ってね」ということですね。
――美術監督の東地和生さんは、なかなかマキアに納得できなかったそうですね。
堀川 そうですね。でも、作品の内容についてぶつかることっていうのはウェルカムですよ。東地さんはその作品の世界に入っていくために「もっとぶつかろうよ」ということを求めていくタイプなんです。そこで、それに対してなぁなぁで済ましてしまってはダメなんです。みんな作品を大事にしているからこそ、ぶつかることもあるんだというふうに理解しないといけないところですね。
――試写を見た方の反応はいかがですか。
堀川 自分の人生と映画を照らし合わせて、親だったり子供だったりを思い出したという方は多いですね。ただその感想はそれぞれの立場でみな違っているし、この静かな映画がポッとそこに置かれたことをきっかけに、その人が気が付かいていなかった大切な関係が心の中から引きずり出されているみたいで、そこはすごくおもしろいです。
――堀川さんはこの作品が、制作の現場に入る最後と決めていたそうですね。
堀川 そうなんです。だから脚本の読みあわせをして、この映画の全体像が見えた時に、「こういう作品を最後に書いてくれてありがとう」と思いましたね。終わりがいがある作品でした。

ほりかわ・けんじ/P.A.WORKS代表取締役。プロデュース作品に『true tears』、『花咲くいろは』、『有頂天家族』、『SHIROBAKO』などがある。

2018.02.20

エリアル役 入野自由 インタビュー

――作品の第一印象を教えてください。
入野 オーディションの時は、ファンタジーで専門用語も多いので難解だという印象でした。その後、メインキャストが集まって本読みをすることになりました。事前に台本をいただいたんですが、感動しましたし、「この作品は絶対に面白い!」と感じました。
――脚本に岡田さんらしい感触がありましたか。
入野 岡田さんが関わった全部の作品を知っているわけではないので、断言するのは難しいんですが……セリフがとても真っ直ぐに、痛い言葉もそのままに描かれているのが印象的で、岡田さんの描く世界だと感じました。
――岡田さんが初監督を務めることについてはどう思いましたか。
入野 おもしろい試みだと思いました。監督をされるとういうのは大きな決断だったと思いますし、大変なこともあったと思いますが、面白い作品を作ろうとしているんだなということをアフレコ現場の様子で感じました。
――長命なマキアと人間の子供エリアルの関係が映画の縦軸です。
入野 普通の人間と姿が変わらないまま長生きする種族の関係という、ファンタジーの部分を、岡田さんはすごくリアルに表現していました。だから、演じていて共感するところが沢山ありました。エリアルが、自分とマキアの関係について言うセリフがあるんですが、その2行ぐらいのセリフの中に、二人の関係性が詰まっていると思います。無償の愛というのは、こういうことなんだと思いました。一人でも多い人に観ていただきたい作品です。

いりの・みゆ/ジャンクション所属。主な出演作に『機動戦士ガンダム00』(沙慈・クロスロード)、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(宿海仁太)、『コードギアス 亡国のアキト』(日向アキト)、『言の葉の庭』(タカオ)、『聲の形』(石田将也)などがある。

2018.02.19

タイトル

取材でよく聞かれることを、堀川さんがTwitterにあげていたので……私も一つ。
「岡田さんといえば長いタイトルですが、そのこだわりは?」

いや、素敵な質問だと思うんです。でも、これを聞かれると、動揺すると同時に胸が痛みます……。なぜなら、オリジナル企画のタイトルの場合、シナリオ打合せに参加しているスタッフがアイディアをもちよって会議で決定するのが基本なのですが……確実に「自分でつけました!」と言えるのは三つだけ(そのうち一つは、P.A.の『凪のあすから』です)。そう、私の考えたタイトルは会議で選ばれないんです!敗北の歴史!
たとえば、P.A.でシリーズ構成を担当した『花咲くいろは』。大好きなタイトルなんですけど、これは脚本で参加してくれた樋口達人さんがつけてくれたものです。素敵なタイトルありがとう!そのネーミングセンスを、お友達価格でわけてくれー!

そんなわけで、タイトル決めが本当に苦手な私。今回もなかなか決まらず、仮でつけていた『マキア』でいいじゃん……というムードが流れだした頃。宣伝チームから「岡田さんと言えば長いタイトルですので、別タイトルを考えてください」との発注が!動揺!
長いタイトルって難しくて、うんうん唸って、スタッフのみんなにも相談して、結局〆切を過ぎて。もうどうしようもないので、宣伝チームに「タイトル決め会議を開催してください!」とお願いしました。ホワイトボードに、いくつもタイトル候補を書いていって。それでも全員が納得するものは生まれず、今度はタイトルに使えそうな『作品のキーワード』をあげることに。

私が考えた言葉は『約束』。約束って美しいものだけど、自分と誰かを縛るものでもありますよね。それが足枷になりながらも、縛られることで与えられる役割と安心感もあって。プラスとマイナスの両面を抱えながら、それでも約束は、自分を支えてくれる力になる……。

宣伝チームが考えてくれた言葉と合体し、調整して、なんとか完成したこの『さよならの朝に約束の花をかざろう』というタイトル。今では、とても大切なタイトルになりました。この宣伝チームの皆さん、全国縦断試写会でもすごく頑張ってくださったんです。制作期間中はあまり接する機会がなかったのですが、試写会を通じて一人ひとりの個性を知り、作品に対して熱意と愛情をもって取り組んでくださっているのがわかって嬉しかった。これからも、よろしくお願いいたします!

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タイトルがやっと決まった時に、喜び勇んでタイトルを書き壁にはっておいたら、石井さんがそこに絵を描いてくれたものです。マキアとオノラに喜んでもらえて嬉しかったです……待たせてごめんよ!あ、王様もね。

2018.02.16

マキア役 石見舞菜香 インタビュー

――マキア役に決まった時の感想を教えてください。
石見 オーディションでは絶対落ちたと思っていたので、すごく驚きました。私がこの世界を目指したきっかけは、岡田(麿里)監督が脚本を書かれた『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』なんです。しかも『あの花』に出演されていた入野自由さん、茅野愛衣さんも出演されるということで、本当に夢のようでした。
――アフレコの前にメインキャストが集まった台本の読み合わせがあったそうですね。
石見 私にとっては初めての経験でした。お芝居だけではなく「作画の参考用に表情を撮りたい」というお話で、カメラを置いた状態で皆でセリフを読んだんです。その時は今以上に、現場慣れしていない時期だったので、ガチガチに緊張ました。入野さんがアドバイスをしてくださって、その力を借りてなんとかやることができました。必死になっているところがマキアというキャラクターに沿っていたようで、岡田監督から「そのままで大丈夫だよ」という言葉をいただいたので、なんとか演じることができました。
――その読み合わせからアフレコまで1年ほど空いています。
石見 オーディションは自信がなかったので、そこからすごく成長しなければいけない、という気持ちがありました。だから役柄を深く考えたり、イメージをちゃんと持てるようになるための時間ができたのはありがたかったです。一方で時間があることで自分が変わってしまって、「オーディションの時のほうがよかった、とガッカリされてしまったらどうしよう」という不安もありました。
――マキアは、長命なイオルフなので時間が経っても見た目はほとんど変わりません。
石見 そうなんです。そこが演じていて難しいところでした。マキアはお話の中ではエリアルを育てる「母」なのですが、姿は少女のまま変わらない。だから少し気を抜いてしまうと雰囲気が女の子になってしまうんです。そういう意味でも岡田監督からは「母としての心を強く持ち続けてほしい」という話をいただきました。
――石見さんから見た『さよならの朝に約束の花をかざろう』はどんな作品でしょうか。
石見 まずマキアの成長を描いた物語だと思います。そしてそれを通じて生と死、親と子、時間の流れといった大切なものを改めて気づかせてくれような作品だと思っています。最初にご覧になった時には壮大な世界観に驚かれて、受け止めきれないぐらいの感情が生まれるかもしれません。私はこの映画を見て人生が変わる方がきっといると思っているので、一人でも多くの方の心に届いてほしいと思っています。

いわみ・まなか/プロフィット所属。主な出演作に『多田くんは恋をしない』(テレサ・ワーグナー)、『ゲーマーズ!』(星ノ守千秋)、『クジラの子らは砂上に歌う』(リコス)などがある。

2018.02.15

全国縦断試写会in新宿

2月13日、新宿バルト9。全国縦断試写会も、これでラストになりました。お集まりいただいた皆さま、本当にありがとうございました……!

今回は、マキア役の石見さんも一緒でした。純粋さと優しさ、不器用さとひたむきさ……そんな石見さん自身が滲む声に、マキアというキャラクターを引っ張ってもらいました。とても素敵な声優さんです。

挨拶でも触れましたが。「岡田麿里を100%さらけだした作品が見たい」という堀川さんの言葉を、私が曲解したことから始まった監督としての日々。この『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、私100%なんて言ったら罰があたります。どのカットを見ても、スタッフの熱意と才能が満ちている。そのカットが完成するまでに、どれだけ多くの人たちが、どれだけ多くの思いを注いでくれたか。副監督の篠原さんをはじめとしたスタッフに支えられて、本当に大切な作品が完成しました。アニメは共同作業で、誰か一人の100%なんてありえません。みんなで作った、みんなの作品です。

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頼りない監督ですが、スタッフを代表して皆さまにご挨拶させていただいたことを、とても幸せに思います。作品が公開されて、より多くの皆さまにお会いできる機会がもてますように。まだ、気を抜かずに走っていきたいと思います!

2018.02.13

全国縦断試写会 in 博多、大阪、名古屋、静岡

全国縦断試写会。2月6日は博多、8日は大阪、9日は名古屋と静岡にお邪魔しました。皆さま、お寒いなかお集まりいただきありがとうございました。お会いできて嬉しかったです!

博多では、キャラクターデザイン・総作画監督の石井さんが一緒でした。
私達の席は他のスタッフとは棚で仕切られていまして。周りから見えないのをいいことに、こそこそと体幹を鍛える運動をしたり、駄話をしたり……まだ本編も完成していないというのに、キャラクター(主に男子)のアナザーストーリーを作って、設定制作の和場ちゃんも一緒にウヒョヒョと盛り上がったりしていました。

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作業中、石井さんは「どんどん絵が変わってきちゃうんですよ」と言っていましたが、その変化がまたグッとくるというか……良いんです、とても。作中でキャラクター達が成長していくのが、石井さんの絵の変化と重なって、まさに生きているキャラクターになったと思います。現在、石井さんはさまざまな版権絵の作業中なのですが、絵があがってくるたびに東地さんと橘内君と「石井さんに神が降臨している」と興奮しています。

大阪では、いつも試写会を一緒にまわっている堀川さんが、インフルエンザにかかってしまいました……待っていてくださった皆さま、本当に申し訳ありませんでした。堀川さんはいつも頑張りすぎてしまうので、見えないところで限界がきていたのかもしれません。これを機会に、少し休んでもらいたいのですが……。

名古屋、静岡ではコア・ディレクターの平松さんと一緒でした。
平松さんはこの作品にとって、寅さんのような人でした。風のようにやってきて、風のように去っていく……なのにきっかり、しかも高クオリティで作業物が上がっている!そしてラストの追いこみでは、凄まじい熱量で作品を底上げしまくっていただき、その妥協のない姿勢に圧倒されました。

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平松さんが担当してくださったパートは、作中でも大きな転換の場。マキアとエリアルの関係値が、ぐぐっと動く場所になります。平松さんのコンテやレイアウトは、人の動線や視線誘導まで神経が行き届いていて。繊細なのにダイナミックさがあり、心が揺れまくります。ぜひ注目していただきたいです。

関わってくださったスタッフのこと、もっともっと書きたい!
……のですが、本編の内容に踏みこんでしまう部分があるので、『さよならの朝に約束の花をかざろう』が公開されたらゴンゴン書いていきますね。ゴンゴン。

2018.02.09

コア・ディレクター 平松禎史 より

みな様 こんにちは。平松禎史です。
『さよならの朝に約束の花をかざろう』では、コア・ディレクター、作画監督などを担当いたしました。

 まず、この「コア・ディレクター」という聞きなれない役職名について少し説明しておきますね。
最初に堀川さんからご依頼いただいたのは「絵コンテ・演出」でした。しばらくたって、作画監督もやってもらえないか、サブキャラクターのデザインも幾つか・・・と仕事が増えていきました。さらに制作が進むに連れ、ラッシュチェック(撮影した映像をチェックして修正点を出す作業)で自分の担当パートではないところで岡田監督や篠原さんなどが改善方法に困っている時にアイディアを出すことがあり、それが次第に増えていきました。船頭が多いと船が山を登ったり空を飛んでしまって(アニメでは幽霊船や戦艦が飛んだり、船が本当に山に登ったりしますが)良いことがないので、技術的なことに絞っていましたが、結果的にかなり広い範囲に関わることになりました。終盤になって堀川さんから「(単に演出ではなく)何か役職名をつけたい」と提案があったので、いろいろと相談して決着したのが「コア・ディレクター」だったのです。ちゃんちゃん♪

 さて、今回はインタビューではなく文書でお送りしております。とはいえ、自分であれこれ考えるだけだと狭くなりそうなので、『さよ朝』を最初から最後まで支えてくれた制作デスクの橘内(きつない)君に質問を募集しました。彼が出してきた質問は4つ。以下、質問は原文から文体を少々整えています。
では、ひとつひとつ参りましょう。

Qー1:岡田監督と一緒に仕事をしてみて、どう思いましたか?

 岡田監督と仕事をしたのははじめてでしたが、物語や登場人物、場面の意味などが明確でやりやすかったです。一方で、すべての要素をまとめてババーーッと出すタイプではないようで、やり取りをする過程や雑談のなかにヒントがあったりして、何か聞き出そうとして出て来るのではなく、不意に「あっ、それ!」てな感じであらわれるので最初は少しだけ戸惑いましたが、だんだんそれがおもしろく思えるようになりました。作品そのものもそうですが、やっていく(観ていく)なかに発見があるのが楽しかったです。

Q-2:最初に脚本を呼んでみて、どう思いましたか?

 ファンタジーは、これまで演出で手がけたことがなかったので、自分にできるかどうか心配でしたが、(ネタバレになるので詳しく書けないけど)作品の本質的なところが自分の興味と重なっていたことや、登場人物が魅力的だったことなど、読んでいくうちに気にならなくなりました。
堀川さんから「ここを」と言われたパートは中盤で、いわゆる「ダレ場」です。どんな物語にも必要な「場」なのですが、さすが堀川さん、ボクの趣味をよくご存知で、最初に読んだ段階でいろいろな映像が浮かんできました。

Q-3:担当パートを演出するにあたって、どのように表現したいかなど、こだわりはありましたか?

 ボクが担当したパートは、PVでチラッと見える大きな水車のある石造りの町が舞台です。それまでのイオルフの村やメザーテの王都とはまったく違う環境なのが楽しかったし、マキアとエリアルの関係性が変化していく過程を描くのもおもしろかった。演出をやっていておもしろいのは人物の関係性や心情が変化していく様を描くことです。それをどうやって伝えるかに、一番注力しました。

Q-4:平松さんが思う作品の見どころは?

 全部です。
いや・・・もう少し絞りましょうか。
個々の場面で魅力的なところがたくさんありますが、映画全体に流れる時間の中で激しく変化していくものと変わらないものの対比が見どころだと思います。一度観ただけではもしかしたらピンと来ないかもしれません。でも、ボクらを取り巻く環境の変化、人間関係や、四季折々の変化があって、時にはげしい自然の猛威がある生活のなかで、どんなに時間を経ても変わらない、形にあらわれないものがあるのではないか。そんなことを発見していけるとしたら、それがこの映画の見どころだと思います。やっぱり、全部ですね。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、P.A.WORKSの若手から井上俊之さんやボクのような年配(?)まで、全てのスタッフが持てる力を全部出した作品です。美術は美しいし、音楽もすばらしい。撮影も音響効果もとてもこまやかで、石井百合子さんの描く登場人物はにおいまで感じられるように生々しい。
是非とも、劇場でマキアやレイリアのにおいを嗅ぎに来て、じゃなくて、生き様を!一緒に体験いたしましょう!!

2018.02.08

美術設定・コンセプトデザイン 岡田有章 インタビュー

――企画の第一印象を教えてください。
岡田 岡田(麿里)さんが監督と聞いて、監督としては初めてだけれど、脚本は間違いない、と思いました。これはいい仕事を振ってもらったな、と(笑)。自分はファンタジーも大好きですから、そこも全然問題ありませんでした。
――世界観についてはどんなオーダーがありましたか。
岡田 作業はマキアが生まれ育ったイオルフから始めました。岡田監督は「世界から孤立したような場所」というイメージは持っていたけれど、それを映像でどう表現するかについては、まだ迷っていたようでした。どんなルックがよいか何点かこちらからアイデアを出して、その返事を待ちつつ、王宮のあるメザーテと鉄鋼の街のドレイルの設定にも手を付けました。メザーテは最初に2種類アイデアを出したんですが、ひとつがちょっとドレイルとかぶりそうなゴツい雰囲気だったんです。なので、メザーテはよりゴシックな雰囲気を強調し、尖塔を立てたり、オーナメントで装飾過多に見えるように描きました。逆にドレイルは、もっとゴツゴツした雰囲気でまとめていきました。
――最終的に出来上がったイオルフはとても神秘的な雰囲気です。
岡田 石灰岩を長い時間をかけて削って、いろいろな建物を作ったというイメージです。イオルフは長命なので、きっとコツコツと削って自分たちの居住地を作り上げたのだろうと自分なりに想像して描きました。工業製品で作った建物ではないので、いろいろなところが曲線でできています。
――マキアとエリアルが暮らすヘルム農場なども曲線が多いデザインです。
岡田 ヘルム農場は、アールヌーボーのような曲線のデザインをヒントに、もっと自然に近づけて描きました。植林した樹木の幹を柱に、枝を梁にしているイメージです、農場などの建物は傾いでいたりするので、設定を描いていると、どうもパースが間違っているような気がして、知らず知らずのうちに修正していまうんですよ。そこは苦労しました。
――どの美術設定も情報量が多いですが、映画ということを意識されたのでしょうか。
岡田 映画というのもありますが、ちゃんと意味のある情報量にしたいなとは思いました。たとえばメザーテのオーナメントなどは、あの国がすごく豊かな国であったということを意味しているわけです。背景の情報量は、そういうことを通じて、感動のボリューム感の裏打ちをするものだと考えています。この映画の感動が一層増す役割が果たせればよいのですが。

おかだ・ともあき/主な作品に『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』(美術コンセプトデザイン・美術監督)、『クロムクロ』(ビジュアルコンセプト・メカデザイン)、『ガンダム Gのレコンギスタ』(美術監督)などがある。

2018.02.06

全国縦断試写会in新潟

全国縦断試写会、2月2日は新潟にお邪魔しました。
東京は雪でしたが、新潟はスカーッと晴れて気持ちよかったです。そして、試写会に参加してくださった皆さまも、とても気持ちのよい方ばかりでした!なぜかこの日、やたらと緊張スイッチが入ってしまったのですが、温かくおつきあいいただいて嬉しかったです。本当にありがとうございました。

新潟ということで、帰りは日本酒を買って帰りたいなーと思っていたら、会場スタッフの皆さまに地酒をいただきました。やったー、飲んだくれます!
お酒はいただいたし、じゃあお土産何買おう?
そこで「宣伝お手伝いマキア」さんが、新潟のおすすめを教えてくれました。

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▲石井百合子さん版宣伝お手伝いマキア

マキアさん、チョイスが渋い……!
おすすめに従い、ホワイトチョコ柿の種を購入しました。

もともと、このお手伝いマキア。デスクの橘内君が、自分で描いた絵を動かしていたものです。「作業が終わったら、石井さんに絵をかいてもらうのが夢なんです!」と言っていて。望み通り、石井さんが描いてくれました。かわいいのう。
夢が叶ってよかったね、橘内君!

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▲橘内諒太さん版宣伝お手伝いマキア

2018.02.05

美術監督 東地和生 インタビュー

――『さよならの朝に約束の花をかざろう』という作品の第一印象を教えてください。
東地 正直言うと「マジッすか」という感じでした(笑)。そもそも今回は企画内容を知る前に、岡田(麿里)さんからオファーをいただきまして、「岡田さんがやるんだったら」ということでお引き受けしたんですよ。現代劇かと思い込んでいて、後になって内容を聞いたんです。そうしたら「ガチのファンタジーです」というので、そこで「マジか」と思ったんです(笑)。
――どうして「マジか」と思ったんでしょうか。
東地 覚えているんですけれど、岡田監督に「ほら、私たちの世代だと『ドラクエ』とかのゲームでファンタジー好きだったじゃない」って言われたんですよ。でも僕は「いやそのへん、一通りやってはいたけど描くのは……」と思っていて。あと僕の考え方として、現代もののほうがずっとお客さんの共感を呼びやすいだろうというのもありました。学校の教室が出てきたり、帰り道の自動販売機が出てきたり、そういうことでお客さんは、その空気を思い出してくれるんですよね。でもファンタジーはそういう接点がありませんからね。えらいものを引き受けてしまったと思いました。さらに、しばらくの間、主人公のマキアというキャラクターがどうにも掴めなかった。岡田監督に面と向かって、マキアのどこがわからないのか列挙したこともありました。だからしばらくは筆が重かったです。
――何か転機は訪れたんでしょうか。
東地 いくつかきっかけがあるとしたら、ひとつは読み合わせを見学させてもらった時です。読み合わせでは、主なキャストさんが集まって、脚本を頭から通して2時間かけて演じました。岡田監督から「東地さんも見ておいて」といわれて参加したんですが、まずキャストさんたちのテンションが高いことに圧倒されました。そして、終わった時はみんな泣いているんです。しかも終わった後、1時間近く、皆さんでこの作品について語っているんです。それを見て「この作品はすごいのかもしれない」と思いました。その時、岡田監督に「いろいろ文句を言ってすみませんでした」と言った記憶があります。もうひとつはもう少し後になってからですが、岡田監督にまたマキアについてあれこれ疑問を投げかけていた時です。岡田監督の「マキアだってつらいんだよ」という言葉に、自分がエリアル視点でこの物語を見ていたことに気づいて、そこでまた作品の捉え方が大きくかわりました。
――――作品に参加した感想を教えてください。
東地 美術については、これまでの自分はピアノでいうなら、88鍵のうち半分ぐらいでしか表現していなかったのを、全て鍵盤を使って表現してほしいと、岡田監督に求められた作品でした。これまで以上に岡田監督という熱源に接近し、そこで焼かれながら仕事をしたという感じですし、それだけの作品になったと思っています。

ひがしじ・かずき/主な参加作品に『AngelBeats!』、『花咲くいろは』、『TARI TARI』、『凪のあすから』(いずれも美術監督)などがある。

2018.02.01

全国縦断試写会in広島

全国縦断試写会も、とうとう折り返し地点。
お邪魔した広島には、美術監督の東地さんも一緒でした。いつまでも緊張がぬけない私に、「今回は俺に任せてください」と、洋服を一式そろえて臨んでくれた東地さん。仕事でめちゃくちゃ頼りになる東地さんですが、こんなところでも……!

進行台本に「クロストークしてください」と書かれているのですが、東地さんのフレンドリートークにふれ、ようやくそのやり方がわかりました……レベルがあがった!これからは、東地さんの技をなんとか受け継いでいこうと思います。
小さめのアットホームな会場で、傾斜もあるので、目の悪い私でも来てくださった方全員の笑顔が見えました。広島の皆さん、暖かく迎えていただきありがとうございました。

試写会でも触れたのですが、誰もが認める青職人(?)である東地さんの、「黒」が私は大好きなのです。闇の表現が、本当にあったかい。数多くの素晴らしい闇の中で、私が一番愛するのはこのカット。

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黒の中に温度がある。ここは「安心して休める場所なんだ」と、体感でわかる。背景だけでじんわり伝わってくるこの豊かな情報には、言葉をいくら重ねても勝てません。今回、東地さんが参加してくださったことで、背景を意識した脚本にチャレンジしてみたいと思いました。そこにも注目していただけたら……!

背景美術にも、本当に優秀なスタッフが数多く参加してくれています。作画で「このカットのこのキャラは、○○さんが担当しているのでは?」と話題になりますが、背景も担当してくださる方ごとに素晴らしい個性がある。背景チェックをしていると「あ、ここ○○さんの絵だ」と気づくようになって。東地さんに答え合わせをしてもらって、当たっているとドヤッと嬉しくなりました。

2018.01.31

キャラクターデザイン・総作画監督 石井百合子 インタビュー

――『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、非常に日常芝居が多い作品です。
石井 そうですね。それだけに原画枚数が積み上がっていかないと、自然な動きに見えなくて、そこが原画さんも苦労していたところでした。演出チェックでも「もっとこういう動きをさせてほしい」と、さらに演技が追加になる注文が出ることもありました。“椅子に座る”“荷物を持つ”といったお芝居は、普段から目にしているだけに、ちゃんとできていないと違和感が生まれてしまうんですよね。あと劇場作品ということで気負っているところもありました。
――岡田監督とはいつが初対面でしたか。
石井 『花咲くいろは』のロケハンの時に顔合わせをしたのが最初だと思います。ただ、それ以降、姿はお見かけしてもあまり長くお話しする状況ではなかったり、別作品のロケハンで数日ご一緒できたぐらいで。今回、一緒の現場で仕事をしてみたら、力を感じる脚本の雰囲気とはまた別の顔も持っている方なんだなと思いました。大人の中の少女らしさとかそういう部分があるんです。たとえば仕事の合間に岡田監督が私の似顔絵を描いてくれたことがあったんですよ(笑)。その似顔絵は机の脇に貼りました。ちょっとイライラした時は、その似顔絵を見て「笑顔、笑顔」と思いながら作業をしました。
――作業の中では岡田監督とどんなやりとりをしましたか。
石井 総作画監督は、まずキャラクターの表情に責任を持たなくてはならないポジションです。そんな中、岡田監督からは結構ストライクゾーンの狭い表情を求められることが多かったです。たとえば「顔はそれほど怒っていないけれど、胸の中ではいろんな感情が渦巻いている表情」みたいなものですね。そういう繊細な感情表現は岡田監督のこだわっているところのひとつだと思いました。岡田監督の席が近かったので、私も自分で描いていてわからないことがあったら、すぐ岡田監督に尋ねて、その上で表情を掴んでいくようにしました。
――マキアというキャラクターについてはどう思いましたか。
石井 脚本を最初に呼んだ時は感動はしました。ただその時にマキアという子を掴めていたかというと決してそういうことはなかったですね。これまでの仕事の中ではキャラクターの個性をある程度カテゴリーにわけて、それをベースに表情をつけたりしていましたが、マキアというキャラクターはそれをすると違っちゃうなということは思いました。一方で、それは自分がマキアの気持ちになるっていうこととはちょっと違っているんです。自分としてはマキアと一緒に歩かせてもらって、「今はどんな顔をしているんだろう」って表情を覗かせてもらうような、マキアとはそんな距離感でその表情を描いていきました。映画からいろんなキャラクターの感情を感じ取ってもらえたらうれしいです。

いしい・ゆりこ/主な参加作品に『花咲くいろは』(メインアニメーター)、『Another』、『凪のあすから』、『クロムクロ』(いずれもキャラクターデザイン・総作画監督)などがある。

2018.01.29

全国縦断試写会in仙台&札幌

全国縦断試写会、1月25・26日。
宮城県は仙台、そして北海道は札幌にお邪魔しました。
どちらも当日は、雪、雪、雪。風も強くて、皆さんは大丈夫だろうか……
お会いしたいのはやまやまだけれど、無理はしないでいただきたいな……
と不安になりながら迎えた本番ですが、結果として多くの方に集まっていただきました。

仙台の皆さんは、すごくニコニコ話を聞いてくださいました。
この素敵な笑顔を、スタッフの皆にも見せたい……!
札幌での試写会は、スクリーンも大きく客席も広くて。
緊張のあまり何度か頭が真っ白になってしまいましたが、
皆さんグダグダな話にも暖かく耳を傾けてくださいました。
仙台と札幌の皆さん、本当にありがとうございました。帰り道は大丈夫でしたか?

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上映が終わったらもらえないかな……。

そして。宮城と北海道と言えば、やはり美味しい食べ物。
仙台では牛タンをいただきました。怒涛の旨味が押し寄せてくる……さすがは本場!
堀川さんはつけあわせの味噌をいたく気にいって、空港で購入していました。

北海道では……私、ラーメンが大好物でして。
千歳空港で何か妙なスイッチが入ってしまい、えびみそラーメン、味噌バターコーンラーメン、
醤油ラーメンのハーフを無事完食しました。
甘いものでは開かない私の別腹は、ラーメンだと景気よく全開放しまくりです。

しばらく体重計には乗らず、現実から目を背けて生きていこうと思います。

2018.01.26

副監督 篠原俊哉 インタビュー

――ついに『さよならの朝に約束の花をかざろう』が完成しました。
篠原 もう試写会が始まっていますが、実はまだ完成品を見てないんですよ。いつ見られるのかな(笑)。
僕は最初、岡田麿里さんが監督するなら、総監督としてTVシリーズをやるのがいいんじゃないかと思っていたのですが、映画だと聞いて慌てました。TVだったら長くても1年半ぐらいで終わると思っていたのが、結果的には最初のミーティングから3年半以上に渡る長期の仕事になりました。岡田監督言うところの「老後の渦中」にある身としては、いささか複雑な思いです(笑)。

――副監督というクレジットですが、どういう立場でしょうか。
篠原 裏方として岡田(麿里)監督を支える役回りです。今回自分がやっていることは、演出的な統括という点をサポートする補佐役です。

――補佐役ですか。
篠原 監督がやりたいこと、イメージしていることを聞き出して、それを具体的に映像に落とし込む作業の現場監督みたいなものでしょうか。なるべく自分の意見を交えずにいくつかの選択肢を提示して、岡田監督にジャッジしてもらうようにしました。僕たちが関わるアニメづくりって、ひとりが全部やってしまうのは非常に稀なケースです。僕自身監督をやっていますが、絵や脚本を書くわけではないし、音響監督ができるわけでもない。それでも監督がやれるのはたくさんのスタッフの尽力があればこそなんです。それでいうと、岡田監督は、まず自分で書いた脚本があり、キャラクターを含めた作品世界のイメージもはっきりしている。だからあとは実務的なところをサポートするスタッフがいさえすれば、堀川憲司プロデューサーが考えた「岡田麿里100%」という作品がおもしろい形で実現できるんじゃないなかと考えました。

――篠原さんから見た脚本家の岡田麿里さんというのはどんな方ですか。
篠原 はじめて岡田監督のシナリオでコンテを描いてからもう12、3年、一緒に仕事をしていますが、いまだに底知れぬ才能を感じる脚本家です。自分はその一端にしか触れていませんが、キャラクターの描写力、発想の面白さ、ストーリーの構成力、一言でハートを鷲掴みにする強いセリフ等々魅力を言い出せばキリがありません。特に構成の絶妙なバランス感覚は、腕の立つモビール職人のようです。モビールってこっちのおもりを外したら、どこか別のところにおもりをつけないと全体のバランスが崩れてしまいますよね。ひとつのストーリーの中でどこにどんな重さの錘をつければ全体が過不足なく成立するのか、その難しいさじ加減をサラリとやってのける印象が強いです。

――公開を待っているファンの方に一言お願いします。
篠原 今回、スタッフの間では「さよ朝」に対する感想が人により随分違っていました。誰の視点に寄り添うか、何を一番大事なものとして見ていくかで大きく姿を変える映画になっているからだと思います。ですから、一度観るだけでなく、二度三度と観て、そのたびに新しい発見を楽しんでいただけたら。そしてその中で、少しでも琴線に触れるものが発見できれば、作り手としてこれ以上の喜びはありません。

しのはら・としや/主な監督作品に『黒執事』、『戦う司書 』、『凪のあすから』などがある。

2018.01.24

全国縦断試写会in富山&金沢

トンネルを抜けなくても雪国だった、1月22日・23日。
『さよならの朝に約束の花をかざろう』の、全国縦断試写会が、いよいよスタートしました。

白く連なる山並みに、黒い瓦屋根がまるで水墨画のような凛々しさ。
乃絵・比呂美・愛子の初恋と、『true tears』の生まれた富山。
華やかな都会でありながら、しっかりと息づく重厚な歴史。
緒花達が伝統を学びつつ未来を夢みた、『花咲くいろは』の金沢……
おや、観光パンフレットを書いているような気分に……。
とにもかくにも。
P.A.WORKSと私にとって特別な場所である、富山と金沢から試写会はスタートしました。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』を、皆さまに見ていただく。
この日のために、スタッフみんなで頑張ってきました。
だからこそ、みんなの気持ちを背負いスタッフ代表として、胸をはってご挨拶せねばなのに……
押し寄せる緊張に、胃がひっくり返りそうになりながら当日を迎えました。

ですが、本番になったら緊張は吹き飛びました!
……すいません、誇張しました。緊張はしましたが、それ以上の喜びが押し寄せてきました。
試写会に参加してくださった方々が、とても優しく迎えてくださったからです。
そして、お寄せいただいた暖かな感想達。
もともとどうかしている傾向にある私なのに、ますますどうかしてしまいそうになりました……!
天候も安定しないなか足をお運びいただき、本当にありがとうございました。
いただいた言葉、一つひとつが宝物です。

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ままとずっと、なかよくね。

次は仙台、そして北海道です。
試写会に参加してくださる方は、当日はとても冷えこむとのこと、暖かくしておいでください。
お会いできるのを楽しみにしています。

2018.01.20

『マキア部屋』

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ここは、『さよならの朝に約束の花をかざろう』に関わる
フリーのスタッフが集まる部屋で、『マキア部屋』と呼ばれていました。
今は主だった作業がすでに終了しているので、がらんとしています。
ついこの間まで、静かで熱い戦いが繰り広げられていたのが
不思議になるような光景です……。
切ないような、ほっとしたような、やっぱり切ないような。

普段、脚本作業をするときは自宅で仕事をしてきました。
音楽もかけないので、仕事部屋には一人ぶんのキーボードの音だけ。
でも、マキア部屋での日々は違いました。
かりかり鉛筆を走らせる音、ぱらぱら動画用紙をめくる音が辺りに響いて。
私もチェックをする際には、その軽やかな音の一員になって……。

と、ちょっとポエミィに書いてはみましたが。
私の指示書きの文字は、副監督を担当してくださった篠原さんに、
「ここまで字が汚かったとは」と衝撃を与えた代物でして。
……一息ついたら、ペン字でも習おうかな。

 

 

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チェック物があがった時の、制作の子へのメッセージです。
たわむれに、ちょっと絵を描いたりもします……。
これは、総作画監督の石井さんと私の愛の(?)合作です。
こんな時でも、私の字は汚いです。

2018.01.12

『さよ朝制作ブログ』開始のご挨拶

皆さま、こんにちは。岡田麿里です。
今日から、『さよ朝制作ブログ』を担当することになりました。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』が動き出して、早三年。去年の今頃は、富山本社に三日間の強行作打ちに行ってました。PA本社のアニメーターさんとカットごとに打合せをしたのですが、これがなんとも、静かに高まりました……。
PA作品の画集やスタッフロールなどで名前は知っているけれど、ちゃんと話をするのは初めてという方が多かったのです。シャープな絵を描くのに、穏やかでおっとりしてるんだなーとか。こんなに楽しいお嬢さんだったのかーとか。描く絵を先に知っていて、その後にご本人を知るときめき……。

新社屋には初めてお邪魔したんですが、学校のようで素敵でした。お昼には社食をご馳走になって、これも給食みたいで美味しかったです。小学校低学年の頃は、給食が苦手だったのにな。掃除の時間まで、教室の後ろに残される奴でした。なのに、

「どうして、こんなに育ったの!?」

……というセリフが、今回の作品の中にあります。
さりげないシーンですが、めちゃくちゃ動いて作画枚数半端ないです。

こんな感じで、とりとめなく書いていきたいと思います。なにとぞ、よろしくお願いいたします。