１）颯太たち獣医学部生が大学で受ける『外科実習』とは？
獣医学部における生体を使用した手術の練習の授業の総称。
獣医学部生には必須科目であり、多くの大学で４年生が履修します。
この獣医学外科実習には、2003年までは保健所に収容された犬が生体で使用されていましたが、2004年以降は実習専用の実験犬が使用されていました。なお、実習で使用した犬は麻酔で眠らせ、実習終了時に安楽死をさせています。
映画に登場する生体を使った「外科実習」は、モデルとなった大学では2018年に廃止され、2021年現在、獣医科大学では、死体や生体によく似た素材を使用した代替法の活用により多くの実習が行われています。

２）颯太と柴崎が犬をもらった『保健所』と柴崎が就職した『愛護センター』とは？
保健所は厚生労働省の管轄下にあり、地域保健法に基づいて、各都道府県と政令指定都市、特別区ごとに複数箇所ずつ設置されています。「愛護センター」と称される動物愛護管理センターは、動物の愛護及び管理に関する法律に基づき設置されている施設で、もともと保健所が行っていた動物管理関係業務（動物の引取りや譲渡、殺処分、啓発活動、動物取扱業の管理など）を担っています。愛護センターがない都道府県等では、引き続き保健所がこの業務を行っています。自治体によって愛護センターの成り立ちと仕組み、呼称も異なり一様には言えませんが、動物愛護の啓発イベントを開くなど、積極的に啓蒙活動を行うところも増えています。

３）犬部が行う『動物愛護活動』って？
飼い主のいない行き場を失った犬や猫（野犬、野猫も含む）を保護し、必要な治療や社会化トレーニングなどを行って、新しい飼い主を探す活動（譲渡会の実施など）を言います。日本では、その活動の多くは民間のボランティアにより行われ、犬や猫の命が救われてきました。映画の冒頭では颯太と柴崎が独自に行っていましたが、サークル化した後は仲間とルールを作って組織的に行うようになりました。きっと颯太と柴崎の卒業後は、後輩の秋田が代表となり、その後によしみ、そしてその次の後輩が引き継いで行ったことでしょう。
実際の「犬部」は獣医学部の学生がサークル活動の一環として立ち上げたという、当時は珍しい団体でした。獣医学部のある十和田キャンパスにて、現在は「北里しっぽの会」と名前を変えて存続しています。

４）颯太の言う『動物愛護法』とは？
「動物の愛護及び管理に関する法律」の略称です（環境省では、「動物愛護管理法」と称しています）。
この法律の目的は、動物虐待の防止等により「動物を愛護する気風を招来する」こと（動物愛護）、動物の管理指針を定めて「動物による人間への危害等を防止する」こと（動物管理）の大きな二つの柱により、「人間と動物が共に豊かに暮らせる社会を作る」こととされています。
映画の中で多頭飼育崩壊を起こしたペットショップ店主（久米）が「飼いきれなくなった動物をセンター（行政施設）が引き取ってくれない」というのは、2012年に同法が改正された際（2013年に施行）、「犬猫等販売業者の犬猫等の終生飼養の確保」が追加されたことを受け、行政が、繁殖業者やペットショップからの不要な犬猫の引き取りを拒否できるようになったことを指しています。また、直近の2019年の法改正では、生後56日以下の子犬や子猫の販売を原則として禁じる「8週齢規制」が措置されました（2021年に施行）。

５）犬部メンバーたちが問題にした『所有権』って？
民法上、「『物』とは，有体物をいう。」という規定（民法85条）に従い、日本では、動物（ペット）は「物」にあたると解釈されています。
つまり、犬猫は飼い主の「持ち物」であり、飼い主には所有権があるということになります。よって、他人の犬や猫を許可なく持ち去ることは窃盗となります。映画で颯太が逮捕されたのは、窃盗容疑のためでした。

６）よしみが研究する『FIP』って？
正式名称は「猫伝染性腹膜炎」。特に子猫の命に関わる病気で、体内で弱い病原性の猫腸コロナウイルスが、強い病原性の猫伝染性腹膜炎ウイルスに変異し、発症すると考えられています。ウイルスの変異の原因は未だ不明の部分もあり、ワクチンおよび治療方法はまだ実用化されておりません。発症後はすぐに死亡する確率が高く、早期発見が重要です。
FIP発症後の伝染性はほぼ報告されておりませんが、猫腸コロナウイルス自体は感染力が高いため、キャリア（同ウイルスをもっている、すなわち陽性）の猫は、キャリアではない猫との隔離が必要とされます。多頭飼育の環境ではFIPの発症率が高まるとの報告があることから、その発症原因の一つに「ストレス」が考えられていますが、キャリアであっても発症しない場合もあって、科学的には解明されていません。
なお、猫コロナウイルスと新型コロナウイルスはそれぞれ別のコロナウイルスですが、FIPの研究内容は新型コロナウイルスの研究においても引用されています。…よしみの研究も何か貢献していたのかもしれません。