2016.3. 2

リーマン・ショックの裏側で起きた驚きの真実

2008年9月、リーマン・ブラザーズの経営破綻により引き起こされた世界的な金融危機、リーマン・ショック。あの混乱のなかでも、金融システムの崩壊を見抜いて大儲けをした人たちがいた。この実話に焦点を当てたのが、債券セールスマンとしての経験もある作家マイケル・ルイスによるノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』だ。本書にもとづき、『マネー・ショート 華麗なる大逆転 』は世界経済を混迷させた出来事をシニカルにとらえながらも、痛快なドラマに仕上がっている。
 2005年、好景気に沸くアメリカ。金融トレーダーのマイケルは、返済の見込みの少ない住宅ローンを含む金融商品(サブプライム・ローン)が数年のうちに債務不履行(デフォルト)に陥る可能性があることに気づく。そして、サブプライム・ローンが暴落した時に保険金が支払われる金融取引、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の契約を投資銀行とかわす。彼の戦略を発端に、顧客にCDSを進める銀行家、大手銀行に不信感を募らせているファンド・マネージャー、ウォール街進出への野心を抱く若い投資家が、住宅バブルに隠された落とし穴に大勝負を仕掛けた。
 ショート(空売り)をはじめとする金融用語を理解していれば、面白さが増すのは言うまでもない。だが、知らなくても大丈夫。ライアン・ゴズリング演じる銀行家が劇中にミニ講座を設け、テレビ・キャスター、俳優などの著名人にサブプライム・ローン、CDS、債務担保証券(CDO)などを解説させ、興味をそそる。その仕組みがわかればなおさら主人公たちの先見の明に納得し、金融システムの不透明さ、業界の倫理観の欠如に憤り、呆れてします。
 クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットが、ウォール街に挑む型破りの金融マンを演じ、アンサンブル・キャストの妙が冴える。クリスチャン・ベール演じる、医師から金融トレーダーに転じたマイケルは、金融業界のスティーブ・ジョブズとも言える強烈な個性で際立ち、興味深い。『フォックスキャッチャー』(2014年)の怪演が記憶に新しいスティーブ・カレルが扮するマークは、市場崩壊へと向かうなか、金融マンの"良心"を滲ませて悲喜劇に緩急をつける。
 プロデューサーも務めるブラッド・ピットが演じるのは、一線を退いた伝説の銀行家ベン。彼のサポートにより若い投資家は大金を手にするが、喜ぶ彼らを諌める。「はしゃぎすぎるな。多くの人が家を、仕事を、そして、人生を失うのだから」と。
 金融システムを逆手にとって大儲けをするのが痛快だ。しかし、その後味は苦い。

                                             池谷律代