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2018.02.22

プロデューサー 堀川憲司 インタビュー

――『さよならの朝に約束の花をかざろう』が完成し、いよいよ公開になります。
堀川 僕はこの作品を制作するにあたって“わかりやすいキャラクターではないもの”を見たかったんです。そして実際にマキアというキャラクターは、人によって捉え方がいろいろあるキャラクターになりました。岡田監督は打ち合わせで「自分はこういう映画を作りたいんだってスタッフに説明するわけですが、この映画では、それを聞いたスタッフはそれをそのまま受け取るんではないんですよ。「岡田監督はああ言ったけれど、では、自分はこの作品をどう考えればいいのか」というふうに考えながら制作していたんです。岡田監督の考えるマキア像、それから自分たちのマキア像、そういうものがいろいろ生まれるのがおもしろかったし、そういうことを通じて、岡田監督が自分でも意識していない無意識の部分も見えてくるんじゃないかと思っていました。
――わかりにくいキャラクター、ですか。
堀川 TVシリーズの脚本は、複数の脚本家が参加することもあって、キャラクターについては「この人はこういう人だね」というコンセンサスのもとでしか制作を進められないんです。そうすると、人間らしい不可解な部分というのはなかなか表現することができない。これが『有頂天家族』のような原作が小説のものだと逆に可能になるんですが、そういうことをアニメオリジナルの企画としてできないだろうか、と。そしてそういうものを描くには、その人の中にやはりそういう部分がないと難しいと思うんです。「この人はもっと掘っていくと、底知れぬものが出てくるんじゃないか」。岡田監督には以前からそういうものを感じていたので、「100%の岡田麿里を見たい」という話をしたわけです。
――脚本作業はスムーズだったんですか?
堀川 もうかなり最初の段階から現在のものに近いものが出てきました。もちろん稿は重ねましたが、その時も「ここはわかりにくいから、わかりやすく」というような直し方はしませんでしたね。そのかわりにスタッフが岡田監督の説明も踏まえつつ、「これはどう解釈すればいいか」をそれぞれに考えていくわけです。しかもおもしろいのは篠原(俊哉)副監督もコア・ディレクターの平松(禎史)さんも、それを岡田監督にいちいち言葉で確かめたりはしないんです。「違っていたら言ってね」ということですね。
――美術監督の東地和生さんは、なかなかマキアに納得できなかったそうですね。
堀川 そうですね。でも、作品の内容についてぶつかることっていうのはウェルカムですよ。東地さんはその作品の世界に入っていくために「もっとぶつかろうよ」ということを求めていくタイプなんです。そこで、それに対してなぁなぁで済ましてしまってはダメなんです。みんな作品を大事にしているからこそ、ぶつかることもあるんだというふうに理解しないといけないところですね。
――試写を見た方の反応はいかがですか。
堀川 自分の人生と映画を照らし合わせて、親だったり子供だったりを思い出したという方は多いですね。ただその感想はそれぞれの立場でみな違っているし、この静かな映画がポッとそこに置かれたことをきっかけに、その人が気が付かいていなかった大切な関係が心の中から引きずり出されているみたいで、そこはすごくおもしろいです。
――堀川さんはこの作品が、制作の現場に入る最後と決めていたそうですね。
堀川 そうなんです。だから脚本の読みあわせをして、この映画の全体像が見えた時に、「こういう作品を最後に書いてくれてありがとう」と思いましたね。終わりがいがある作品でした。

ほりかわ・けんじ/P.A.WORKS代表取締役。プロデュース作品に『true tears』、『花咲くいろは』、『有頂天家族』、『SHIROBAKO』などがある。